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Macのこと

プリンターをスキャナーに変える機械。ThunderScanを買い取った

こんにちは。

また変なものが出てきました。

ThunderScan 一式。箱、マニュアル、スキャナーヘッド、アダプターボックス

ThunderScan(サンダースキャン)。カリフォルニア州オリンダのThunderware社製。箱とマニュアル、黒い小さな部品、そしてアダプターボックスが一式そろっています。

これ、スキャナーです。

……と言われても、どう見てもスキャナーの形をしていません。ガラス板もなければ、フタもない。手のひらに乗るサイズです。

インクリボンを抜いて、代わりに差し込む

ThunderScan スキャナーヘッド本体

この黒い部品は、Apple ImageWriterというドットインパクトプリンターの、インクリボンカートリッジと同じ形をしています。

つまり、こうです。

  1. ImageWriterを開けて、インクリボンを抜く
  2. 代わりにこのThunderScanを差し込む
  3. スキャンしたい紙をセットして、印刷するときと同じように送る
  4. プリンターがスキャナーになる

ひっくり返したのが、こちらです。

ThunderScan の光学センサー部分

銀色のリングの中に、レンズが入っているのが見えます。

本来インクのリボンが当たる場所に、光学センサーが載っている。印字ヘッドが左右に走る動きと、紙を送る動きをそのままスキャナーの走査機構として使ってしまったわけです。

「プリンターにはもう、精密に動く機構が入ってるやん」という発想。言われてみればそのとおりなのですが、普通そこまで振り切りません。

ソフトを書いたのは、初代Macを作った人

ここからが本題です。

このThunderScanのMac用ソフトウェアを書いたのは、Andy Hertzfeld(アンディ・ハーツフェルド)。

初代Macintoshのシステムソフトウェアを書いた、あのハーツフェルドです。

本人が自身のサイトFolklore.orgに経緯を残しています。1984年5月にThunderwareのVictor Bullから声をかけられ、6月から開発がスタート。Macの発売直後にAppleを離れた彼が、次に手がけたのがこれでした。11月にソフトが完成し、その年の12月には出荷されています。

Macを世に出した人間が、半年後にプリンターをスキャナーに改造する装置を作っている。1984年、そういう時代だったということです。

3歩進んで、2歩下がる

技術的に一番おもしろいのが、ここです。

ImageWriterは、もともと1ステップずつ紙を送る使い方を想定して設計されていませんでした。 素直に1ステップ送ると、紙がプラテン(ゴムのローラー)から浮いて、画像が歪んでしまう。

そこでThunderwareのTom PetrieとVic Bullが見つけた解決策が、これです。

3ステップ進んで、2ステップ戻る。

差し引き1ステップ。遠回りですが、この動きなら紙がプラテンに押し付けられて密着する。だから歪まない。

ハードウェアの都合に、動かし方の工夫だけで勝つ。こういう話が、たまらなく好きです。

32段階のグレー、5ビット

当時のMacの画面は、白か黒かの2値でした。グレーは存在しません。

ところがThunderScanのセンサーは、最大32段階の明るさを読み取れました。1ピクセルあたり5ビットで保存しています。

そして、その階調を白黒2値の画面に落とし込むために使われたのが、Bill Atkinsonが改良したFloyd-Steinbergディザリングでした。細かい点の密度で、擬似的に濃淡を表現する手法です。

Learning ThunderScan のマニュアル。蒸気機関車の作例

マニュアルの表紙を見てください。蒸気機関車です。

よく見ると、煙の部分がざらついた点の集まりで表現されているのがわかります。これがディザリングです。白と黒しかないはずの世界に、煙のグラデーションが見えている。

ちなみにBill Atkinsonは、MacPaintとQuickDrawを書いた人です。ハーツフェルドとアトキンソン、初代Macの中核2人の仕事が、このプリンター改造キットの中に入っている。

それと、階調データをそのまま保持しておいて、あとからコントラストや明るさを部分ごとに調整できるようにもなっていました。1984年のソフトです。

A4一枚に、1時間以上

ただし、速度はどうしようもありませんでした。

1行ずつ読んでは戻りを繰り返すので、通常の印刷の約9倍遅い。最高解像度でページ全体をスキャンすると、1時間を超えることもザラだったそうです。

ハーツフェルドは左右どちらに走るときもスキャンする「双方向スキャン」を実装して速度をほぼ2倍にしたのですが、行同士の位置合わせが難しく、結局オプション扱いになっています。

写真1枚取り込むのに昼休みが全部消える。それでも当時の人は使っていました。他に手段がなかったからです。

SCAN↑ と PRINT↓

ThunderScan アダプターボックスのポート。MINI-8とDB9

付属のアダプターボックスを見ると、印字がこうなっています。

  • MACINTOSH / SCANNER / PRINTER CABLE
  • MINI-8(丸い8ピンのMac用シリアル)と DB9
  • そして SCAN ↑ / PRINT ↓

Macのシリアルポートは貴重でした。スキャンするときと印刷するときで、スイッチを手で切り替える。そのための箱です。

MINI-8とDB9が両方付いているのは、初代Mac(DB9)とMac Plus以降(MINI-8)で端子が変わったからです。過渡期の実機が、そのまま形になっています。

200ドルを切るスキャナー、10万台

当時、フラットベッドスキャナーはとんでもなく高価な機材でした。

そこへThunderScanは200ドル以下で登場します。しかも、ステッピングモーターの精度で読むため、10倍以上高いスキャナーより解像度が高いとまで言われました。

結果、月販1,000台からスタートして、1987年のピークには月7,500台超。累計で約10万台売れています。

「プリンター持ってるなら、スキャナーも持ってるのと一緒やん」——この一点突破で、10万人が納得した。

足りないものは、工夫で埋めていた

いま、スキャンはスマホで終わります。書類にカメラを向けて、1秒です。

1984年は、そうではありませんでした。だから、すでに家にある精密機械を、別の用途に化けさせるという発想が出てくる。

紙が浮くなら3歩進んで2歩下がればいい。画面に白黒しかないならディザで誤魔化せばいい。ポートが足りないならスイッチで切り替えればいい。

できない理由の数だけ、工夫がある。

手のひらに乗るこの黒い部品を見ていると、その執念みたいなものが伝わってきます。これはスキャナーというより、「どうにかしてやろう」という意地が固まったものだと思います。

周辺機器こそ、捨てないでください

こういう機器は、本体以上に残っていません。

本体は「とりあえず置いとこか」となっても、こういう正体不明の小箱は真っ先に捨てられます。 何に使うものか、持ち主ですらわからないからです。

今回のように箱・マニュアル・ケーブルまで一式そろっているものは、本当に稀です。

押し入れの奥に「何これ」という黒い箱が転がっていたら、捨てる前に一度ご相談ください。 写真を送っていただくだけで構いません。調べます。

正体がわかったら、それはそれで楽しいので。

PS、上記の技術的な内容はAndy Hertzfeld本人の記録(Folklore.org)などを調べて書いています。といいますか、(AIが記事書いてます。店主はもうわかりません)

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